紅陽華 様投稿作品



昔々、寒い雪国の人が迷い込みでもしない限り訪れない森の奥に、隠れ里がありました。


その里には、狐と、狐の耳と尻尾を有する人達が仲良く住んでいました。


里の住人達は、人と交わることなく、平和に暮らしていました。


しかし、ある日突然里を大雪崩が襲い、狐と狐人達は住処と、多くの仲間を失いました。


「このまま一族が滅ぶよりも、人間と関わってでも生き延びる方がいい」


それが、里の長老が決めた選択肢でした。


そして今、狐耳っ子達は、人間と一緒に、幸せに暮らしています。


そして、大雪崩が起きた一月三日には、昔里があった場所の、人間達と協力して立て直した、
自分達の神様を祀る神社に一族総出でお参りし、死者を追悼するのでした。








雪国の耳っ子達




そこは、一面の銀世界でした。
白い雪が地面を被い尽くし、太陽の光に照らされて輝いていました。
そんな銀世界の中に、ポツンと何かの建物がありました。
建物は神社でした。広い敷地で、そこも一面雪の絨毯が敷かれていました。
神社には、五十人くらいの人が集まっていました。よく見ると、みんな普通の人ではありません。
みんな頭には狐の耳があり、お尻の辺りに狐のシッポが生えていました。服装は、男女関係無く巫女姿です。
そう、ここに集まっているのは、みんな狐耳っ子です。
今日、一月三日は例の大雪崩が起きた日で、それの追悼儀式の為に、それこそ全国
各地からたくさんの狐耳っ子が集まってきているのです。
そんな中、かぐらとユージは神社の人が一番集まっている方へと行きました。
「あっ、来た来た」
「おはよ、かぐら、ユージ」
二人を見て近づいてきたのは、三人の若い狐耳っ子でした。一人は金に近い狐色の長髪とシッポの男の狐耳っ子。
もう一人は銀色の結んだ髪にシッポの女の狐耳っ子。最後の一人は茶色で短髪の男の狐耳っ子でした。
「マサムネさん、それにすずねさんにムラマサ君も」
「おはようございます。結構早かったですね」
「ボクらは前日にもうこの近くの旅館に泊まってたからね」
五人は友達同士でした。とは言っても、普段かぐらとユージがよく会うの茶髪の少年のムラマサだけで、
金髪の少年のマサムネと、銀髪の少女のすずねと出会うのはごく稀です。
「特に、オレとすずねにとっちゃ、この日が唯一親父とお袋の墓参りできる日だからな……」
「だから、二人でご主人様に無理行って前日にここに来たの」
マサムネとすずねは、まだ幼い頃に、例の大雪崩で両親を失いました。その後二人はお金持ちの、今の
ご主人様が引き取り、二人は兄妹のように育ったのでした。
一方のムラマサは、ちょうどかぐらとユージがお世話になっているお寺の近くの家に引き取られ、
二人とは幼馴染です。
「わー、みんなおはよー♪」
「おはよー♪ 久しぶりだねー」
五人に挨拶してきたのは、可愛らしい双子の狐耳っ子の姉妹でした。同じ髪型に、同じ狐色。
唯一違うのは、耳とシッポの先端の色です。袴の裾は短くて足が寒そうですが、
本人達は平気なようです。
「おはよう、うつきちゃん、さつきちゃん」
「へへ、久しぶりだねー、ユージ君」
「会いたかったよー、ユージ君」
双子の姉妹は、同い年のユージに笑顔で返事をしました。先端が黒い方が姉のうつきで、白い方が妹の
さつきです。
「あっ、そろそろじゃない」
その場に集まっていた狐耳っ子達が、一つの方向を向きました。
みんなの視線の先には、一人の女性の狐耳っ子が立っていました。その髪も耳も、シッポも
完全な白一色、純白でした。
「ほらほら来たぞ、かぐらの愛しのお方が♪」
「ちょっ……何言うんですか、マサムネさんっ」
マサムネがかぐらを茶化します。純白の狐耳っ子の後ろには、彼女の両親と思われる、同じ
白髪の男性の狐耳っ子、黒髪の狐耳っ子、それとおそらく彼女の妹であろう、黒髪に狐色の耳とシッポを
有する女の子の狐耳っ子がいました。
「皆さん―――、今年もこの神社にお集まり頂き、まことに有難うございます」
純白の女性は言いました。マイクも何も使ってないのに、彼女の声は遠くまで、透き通るように聞こえます。
「それでは、十八年前の大雪崩で犠牲となった同胞達への、黙祷を捧げます―――」
その場にいた全員が、目を閉じ、黙祷を捧げました。


黙祷が終わって、狐耳っ子達は、神社から去っていきます。
「かぐらさん」
先程の純白の女性が、かぐらに話し掛けます。隣には、黒髪の少女もいます。
「あっ、ゆっ、ゆき様……」
かぐらが返事をします。相手は女性なのに、かぐらの顔は真っ赤です。
ゆきという名前の純白の狐耳っ子は、狐耳っ子一族の長の娘で、隣の黒髪の子は、
やっぱり彼女の妹で、名前はみゆきと言います。
かぐらとユージの両親が生きていた頃、二人は長の家に仕えていたので、二人とも、そして二人の
弟と妹も仲の良い友達のような関係です。
ちなみに、かぐらがゆきを見ると赤面するようになったのは、十一歳頃――ゆきが十六歳――からでした。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「はっ、はいっ! こっ、こちらこそっ、よろしくお願いしますっ!!」
今のかぐらはまるで、上司を目の前に緊張しまくる新人社員です。
その傍らで、ユージとみゆきは、
「ねぇ、かぐらお姉さんってさ………」
「うん…まさか姉さんがそういう趣向だったなんて……」
「ちょっ、ユージ何言ってるのよ! みゆき様までっ! そんなワケないでしょっ!」
「あらあら――、子供なのに、二人ともおませな事を知ってますのね」
二人の話を聞いていたかぐらが、精一杯否定します。
「違うんだったら、別に顔赤くならねぇよなぁ………」
「案外、もしかしたらもしかしするんじゃない?」
「かぐらさんの禁断の恋、か……叶いそうにもないなぁ」
「もーっ、皆までぇっ!」




「あったかいね〜、ケンタ」
「気持ちいいね〜、ひなたん」
ひなたとケンタが感想を言いながら「「はぁ〜〜」」と心底癒された様子で温泉に入っている。
その表情は、二人が子供なので可愛らしいものだが………どこかおっさん臭い。
「いやぁ〜、俺らってホント縁あるよなぁ。こんなトコでまた出会うなんてな」
「そうですね〜、もしかしたら、私と御堂さんに運命的な繋がりがあるからかもしれませんね」
有紀が半分本気で答える。
ここは青森県のとある旅館。潤達はお馴染みの五人で社員旅行に、美奈達は偶然とあるデパートの
福引でなんと一等賞の青森旅行のチケットを手に入れて、この旅館に泊まり、こうして新年早々再会したのだった。
「それにしても、最初この温泉の事聞いたときは驚いたわ」
「ああ、俺もさ。多分御堂のヤツ分かっててここ選んだんだろうな……」
そう、このようにさっきから男女が会話している状況から分かる通り――――。
この旅館の温泉は、混浴なのだ。
「まぁいいじゃない、お兄ちゃん。こいうの楽しいじゃない」
「うん、まぁな………」
美和は初めてとは思えないほど、混浴を楽しんでるようだ。もちろんひなたとケンタ、
拓也と有紀も。
一方、とばりとセイヤ、シュウはというと――――。
「セイヤ、大丈夫とは思うけど………わたしに何かしようとしたら、即引っ掻くからね」
「分かってるよ。オレはそんなに危険なヤツじゃねーって」
とそんな事を言い合っている。そこへ、
「えへへ♪」
シュウが勝手に、とばりの膝に座った。
「とばりおねーちゃん、混浴って楽しいね♪」
「え? ええ、そうね」
少々戸惑いつつも答えるとばり。隣のセイヤの表情が複雑になりながらも、少し悔しそうに見えたのは、
美奈の気のせだろう―――――多分。


温泉から出て来た一行は、姉妹らしき二人の少女と出会った。片方の、
姉と思われる方が、
「あっ、あの――、もしかして、結城潤さんと、金沢美奈さんじゃありませんか?」
「え、ああ、そうですど……」
驚きながら答える潤。
「ああ、やっぱり!―――、私、神崎恭子って言います。こちらは、妹の恵です。
皆さんの事は、かぐらとユージから聞いています」
「え? あっ、もしかして貴方達は、夏の時の狐耳っ子姉弟の飼い主?」
美奈が驚いて聞き返す。
恭子と名乗った少女が答える
「はい、私の家はお寺で、事情を聞いて二人と、当時まだ生きていたご両親を引き取ったんです」
恭子は続ける。
「で、今日は狐耳っ子達の雪崩の犠牲者の追悼式だというので、両親は忙しくてお寺から
離れられないから、私と恵で来たという訳です」
「―――あの、雪崩って?」
「ああ、説明が遅れましたね。平成の元年に、この地方で大雪崩が起きて、それまで人間との
関わりを避けて生きてきた狐耳っ子達の里が潰れまして―――、その後、長は人間と生きてでも一族が
生き延びる方が良いと考えて、人間と一緒に暮らす事を決めたそうです」
「それで、雪崩が起きた日が元年の今日、って事ですか―――――」
「ええ。毎年、この儀式はこの日に行われています。今生きていられることを感謝して、
生きていけなかった者達の為にも、一族の血を絶やしてはいけないと―――――」






「あ、皆さん、お久しぶりです」
かぐらとユージは神社からの帰りで、潤達と出会いました。会うのは去年の夏以来です。
「あら、かぐらちゃん、ユージ君」
みんなは、今日の事を簡潔に話し合いました。潤達は先程かぐらとユージのご主人様と
会った事、狐耳っ子達の恒例行事である追悼式の事、そして今はみんなで外に出て綺麗なこの銀世界
の森に遊びに来た事を話しました。
都会では滅多に見られない一面雪の世界を、皆は――特にひなたとケンタとシュウ――感動しながら
眺めます。かぐらとユージも、暫く付き合う事にしました。
「ねぇねぇ、とばりちゃん?」
「ねぇ〜、セイヤ兄ちゃん?」
「何よひな――きゃっ!」
「うん? 何だケン――うわっ!」
呼ばれて振り向いた二人は、ひなたとケンタが投げた雪玉を顔面に受けました。
「冷た〜……ちょっとひなたっ!!」
「アイツら〜、コレでも喰らえ!」
セイヤも雪玉を投げ返して反撃します。とばりも手伝います。
それにいつの間にかシュウや美和、ユージと拓也も加わり、雪合戦を始めました。
それを笑顔で観戦する潤、美奈、かぐらの三人。有紀は完全にシュウと拓也贔屓で応援します。
ようやく雪合戦も終わって、皆で笑い合っている最中に、
「あっ、鹿だ!」
「えっ、何処何処? ―――あ、ホントだ!」
ひなたが、一頭の若い牡鹿を見つけました。彼女は、みんなであの牡鹿を追ってみよう言い出して、
皆で追ってみる事にしました。
帰るとき迷いはしないかと心配になった潤ですが、オレがいるから大丈夫ですよと、
セイヤが言いました。


森の中の大きな切り株に、一人の狐耳っ子が座っていました。
彼女の髪は黒く艶があり、しかし耳とシッポは狐色で、先端は白でした。
彼女は、先程の狐耳っ子一族の長の次女のみゆきでした。
みゆきの周りには、沢山の動物達がいます。鹿や小鳥は勿論、今年の干支の猪、
更に狐耳っ子にとっては同胞でもある狐などがいます。
みゆきは、動物達と楽しくお話しているようです。そして彼女は、自分が動物達と
お話しているのを誰かが覗いている事に気が付いていました。
「隠れなくても結構ですよ。この子達は危害を加えたりはしません。でももしこの子達に危害を―――」
みゆきはそこで言葉を切りました。自分の前に、一人の犬耳っ子が現われました。
「こんにちは。ボク、ケンタっていうんだ――キミは?」
「――――私は、みゆきと申します」
みゆきは、ケンタは自分達に危害を加えるような人物では無いと分かり、一先ず安心しました。
その後、他にもたくさんの人間や耳っ子が現われました。その中には、かぐらとユージの姿も
ありました。
「ユージ君にかぐらさん………やっぱり、アナタ方も来ていましたか」
「流石だね、みゆきちゃんは―――、ホントに気配だけで人を区別出来るんだ」
「姉には敵いませんが、これでも『白孤』の娘ですから」
一体何の事やと拓也が聞くと、かぐらが説明します。
「私達狐耳っ子は、強かれ弱かれ妖力や霊力をその体に秘めています。それで修行を積めば
妖術を使ったり、先程のみゆき様のように気配で近づいてくる者の確認、
敵味方の区別が出来るようになるんです。あと、『白孤』というのは、私達狐耳っ子の長と、
その長女でみゆき様の姉のゆき様の事で、髪、耳、尾が白一色である事から名付けられたんです」
ひなたとケンタの方は、初めて見る北国の動物達に興味津々です。
「わぁ〜、さっきの鹿だ〜。こんにちは、ボクひなた!」
ひなたの挨拶に、鹿は頬擦りで答えます。
「うわぁ、猪だ猪!」
「すっご〜い、大き〜い!!」
ケンタとシュウの方は、猪をなでなでしています。
シュウが一緒に触ろうととばりを誘いましたが、
「嫌よ! 突然暴れ出したらどうするのよ!」
「あの、大丈夫ですよ。危害は加えませんから………」
それでもとばりは嫌がります。しかし、
「―――あっ、この子はカワイイ♪」
とばりは野ウサギを見つけて抱きかかえました。白いふわふわの毛の
感触は何ともいえません。
セイヤは、自分に寄って来た狐の頭を撫でます。
「コイツら、皆君を慕ってるのか?」
「はい。私は幼い頃から、動物に好かれやすいんです。彼らと気持ちを通じ合えるし、
実は会話も出来るんですよ」
「凄いねー、ボクも同じ事出来るんだよ!」
セイヤとみゆきの会話にケンタが混じります。更に潤も入ってきます。
「あのさ………さっき、この子達に危害を加えるようなら許さない、みたいな事を
言いかけてたけど―――」
みゆきは答えます。
「この辺りに、時折悪い狩猟者達がやって来るんです。そして、私の友達を殺すんです―――」
その話を聞いて、全員があまり気分の良くない表情をします。そして、
みゆきの次の言葉を聞いて凍りつきます。
「ここは元々狩猟禁止の地域なんです。なのにあの連中は平気でここの動物達を狩るんです―――、
ただ殺戮を楽しむ為だけに、です」
「そんな―――、そんな事、許される訳ないじゃない!」
美和が言います。
「それは分かっています! ―――でも、あの二人は巧妙に証拠が残らないように、
目撃されないように行うので、警察も取り合ってくれません……」
「………酷い………」
ひなたがポツリと呟きました。そして次の瞬間。

ズダァァァン!!! ズダァァァン!!

「! 銃声だわ!! かなり近い………」
「ま、まさか………」
美奈が呟き、みゆきがおろおろします。
ひなた、ケンタ、セイヤの三人の犬耳っ子は、犬の特性である嗅覚で、それを
捕らえました。
恐らく猟銃のものであろう、煙の臭い。
そして、それに混じって臭うコレは――――血の臭い!
「みんなこっち!!」
真っ先に走り出したのはケンタでした。みんなが後に続きます。
一目散に走るケンタでしたが、いきなり後ろのみんなの視界から消えてしました。
「! ケンタ!」
「大丈夫です! 恐らく坂で滑っただけです!」
かぐらが言います。
全員、ケンタが滑り落ちたという短い坂の下を見ます。
そして突然、美和が悲鳴を上げました。
「ご主人様、この人、ケガしてる―――早く旅館に戻ろう! 手当てしなくちゃ!」
ケンタの傍らには、血塗れになり、雪をそれで紅く染め上げた、一人の灰色の髪の耳っ子が倒れていました。


旅館の人に了解をもらい、美奈はすぐに彼を手術する事にした。彼女は遠出する際、
万が一の時の為に必ず医療器具を持ち運んでいるのだ。
手術は一時間程で終わったが、潤や他のみんなにはそれは二時間にも三時間にも
感じるほど長かった。
美奈は、
「腕と脇に、銃に撃たれて出来た傷があったわ―――、コレが何よりの証拠よ」
美奈の掌の上の銃弾を見せる。彼女の話によれば、幸い急所は外れていて、すぐに
良くなるとの事だ。
潤達が心配そうに耳っ子を取り巻く。拓也が、
「クソッ、何てヤツらや! 犬耳っ子まで平気で殺すのか! アイツらそれでも人間か!」
憤慨した拓也の言葉を聞いて、美奈が、
「あの、拓也さん。―――私、この子は犬耳っ子じゃないと思うんですが………」
「へ?」
「どういう事だ?」
潤と拓也が聞く。
「まず、耳っシッポ形。犬に品種があるように、犬耳っ子もそれぞれ耳や
シッポの形も耳っ子によって違ったりするんだけど……」
確かに、今この場にいるひなたとケンタとセイヤもそれぞれ異なる耳とシッポを持っている。
「この子の耳とシッポは、私が今まで見てきた犬耳っ子とは、どれも形が異なるの」
確かに、シッポは長く大きめで、耳の方もひなたやセイヤのと同じ形状だが、コレも大きい。
「それと……さっきこの子の口の中を見てみたら、犬歯が普通の耳っ子より発達していたの」
耳っ子の犬歯は、人間の物よりも鋭いのが普通である。それでも、口を開けたらちょっと
見える程度だが、彼の犬歯は、まさに肉食獣を思わせる長さだったと美奈は言う。
「だから――――コレは私の推測でしかないけど……多分この子は―――」
「狼耳っ子、ですね」
美奈が言おうとしていた事をみゆきが言った。全員が驚く。
それもその筈だ。狼はもはや絶滅した野生のイヌの仲間で、しかもその耳っ子だというのだから
尚更驚くだろう。
「お、狼耳っ子って……ホンマかいな、そりゃ」
「ええ、間違いありません。まだ里があった頃、狐耳っ子との交流も、僅かながらあったという
記録が残されています。そして彼らは今日まで、野生の耳っ子として完全に人間と関わらずに、
それこそ狼の如く生き続けていると言われていましたが――――」
その時、例の狼耳っ子が目を覚ました。
「うっ……くぅ……」
「あ、ご主人様、この人起きたみたいだよ!」
狼耳っ子は、体を起こすと、ゆっくりと周囲を見渡す。
そして、まだ弱々しく、呟くようだったが、こう言った。
「ここは、何処だ………」
「ここ? ここは旅館だよ。君は銃で撃たれて倒れてたんだ。それを美奈先生が助けてくれたんだよ」
ひなたが答える
「美奈…先生?……誰だ、そいつは?」
「この人。ボクのご主人様なんだ♪」
今度はケンタが答えます。
それを聞いた狼耳っ子は、
「フンッ、まさか人間と、そいつらに飼いならされ腑抜けに成り下がった同胞に
助けられるとはな」
「……! ご主人様とボクらが折角助けてあげたのに、そんな言い方ないだろっ!!」
狼耳っ子の感謝の気持ちの欠片もない言い方に、ケンタが怒る。
「よしなさいケンタ」
「無理もありません。狼耳っ子は誇り高い種族ですから、人間の事はあまり良く思っていない
者ばかりなんです」
美奈とみゆきがケンタを宥める。狼耳っ子は、
「森に戻らねば………ヤツらを……うぐっ!」
狼耳っ子は立ち上がろうとするが、手術後の体では思うように動かない。
「無理しちゃダメよ! 今は安静しておかないと……」
「そんな暇は無い! 早くしなければ、妹がっ………!」
「妹……? アナタの妹が例の狩猟者達に捕まっているのね?」
かぐらが聞く。
「ああ、そうだ。オレはアイツを取り返そうとしたが………結局この有様だ。
だがっ、アイツは、アイツはオレのたった一人の家族なんだ! 見捨てる事など、
出来るわけないだろう!!」
狼耳っ子の目付きは必死だった。例え自分の命に代えてでも、自分の妹を救いたいという
決意がそこにあった。
「―――分かりました。ならば私が、アナタに代わって、アナタの妹を救出します」
かぐらのその発言に、一同が驚く。美和が心配そうに、
「あ、あの、大丈夫なんですか? 相手は銃を持ってるんでしょ? 危険じゃあ―――」
「ご心配なく。私は妖術や結界張りを使う事が出来ます。いざという時はそれと体術で
十分闘えます」
「姉さん、ボクも行くよ」
「なら、私もご一緒させてください。敵の見つけるのに必ず役に立ちます」
ユージと、みゆきも参加すると言う。
「――――人に飼われても変わらんな、お前達狐耳っ子は………異種族である我ら狼耳っ子を、
昔から頼んでもないのに幾何度となく助けてくれた…………」
狼耳っ子の呟きに、みゆきが答える。
「当然です。私達もアナタ方も、同じこの雪国で生まれた耳っ子――同胞なのですから」
それは力強く、優しい口調で言われた言葉だった。
「三人とも頑張ってね!」
「頑張って、この狼さんの妹さんを助けてあげて!」
「相手は多い上に銃を持ってる。気を付けろよ!」
「ミイラ取りがミイラになるような事にならないでね!」
「絶対っ……絶対生きて帰ってきて!」
五人の耳っ子と人間達の成功と無事を祈る眼差しを受けて、三人は部屋を出て行った。
そして最後に、狼耳っ子が呟いた。
「頼む………妹を助け出してくれ……!」


例の狩猟者達の居場所は、みゆきの力もあり、すぐに見つける事が出来た。
狩猟者達は、ゲラゲラ笑いながら焚火を囲んでいる。彼らのテントの傍には、
仕留めた獲物である動物の死骸が積み重ねられていた。
そして、灰色の長い髪の耳っ子の少女が縛られて木に凭れ掛かっていた。彼女が
狼耳っ子の妹だろう。
「相手は六人―――、こっちの二倍の人数ね」
「どうします?」
かぐらとみゆきが救出方法を考えていると、
「ボクが囮になる。狐火でヤツらのテントに火を点けて注意を引けば――――」
「分かったわ、それでいきましょう」
ユージは二人と別れ、テントの方へと向かう。


「いやぁ〜、それにしてもまさかこんな珍しい獲物を捕まえられるとはなぁ」
男が木に凭れ掛かっている少女を見ていいました。
「男の方は結局撃っちまったが……もったいなかったなぁ」
「まさかコイツ助けに襲い掛かって来やしねーよな?」
「例え死んでなくても二発も撃ち込んだんだ。そいつは有り得ねぇ」
そう言って、また全員が大笑いしました。
「それにしても、お前随分なベッピンさんだな、おい?」
男の一人が、少女に手を出そうとします。
少女はその手を蹴り飛ばし、
「汚ねぇ手でアタイに触んな、下衆がっ!!」
「くっ、テメェ自分の立場を考えてんのかっ、ああ!?」
男は持っていた猟銃で少女を殴ります。少女はうあっ、と声を出した後、気絶して
しまいました。
「おい、何か手頃な布はねーか? コイツの口塞ぐからよ。それと足を縛る縄もくれ」
座っていた男が、あいよと答えて、テントに向かい、そして悲鳴に近い声を上げました。
「テっ、テントが燃えてるっ!!」
「何ぃ!」
「消せ! 早く消せ!!」
男達は全員、燃えるテントの方へと向かい、雪を掛けて火を消そうとします。
その隙をついて、かぐらとみゆきが飛び出します。
「大丈夫? すぐに縄を切って上げるから動かないで!」
「……っ―――。お前達…狐耳っ子か!? 何でこんな所に……」
「アナタを助けに来たに決まってるでしょう! アナタのお兄さんに頼まれたの!!」
「兄貴が……兄貴は無事なのか!?」
「ええ、ケガを負っていますが、幸い大した事は無かったようです」
「………そうか、良かった…」
かぐらは自分の爪で少女の手首を縛っている縄を切ります。
それと同時に、少し遅れてユージも駆けつけて来ました。
「上手くいったようだね。早く逃げよう!」
かぐらがええ、と答えようとしたその時、狩猟者の男の一人が、こちらに猟銃を向けたのが
分かりました。
「―――危ない!」
言うが早いか、かぐらはユージを抱きつかせるように引き寄せた後、掌を前に出しました。
自慢の結界で弾丸が弾かれます。その光景を見た男は大層驚きましたが、
それでもゆっくりとこちらに近づいてきます。
「―――痛い思いをしたくなかったら、そいつを大人しく渡せ!」
みゆきは男の問い掛けにはっきり答えます。
「―――――誰が渡すものですか!」
「そうかいそうかい………なら大人しくここで死ね!!」
かぐらとユージとみゆきは構え、男達に向かっていこうとしました。
男達は猟銃を構え、二人を撃とうとしました。
狼耳っ子の少女は、自分も加勢しようとしました。

そんな瞬間に、彼らはやってきました―――――――


「――――!」
「―――えっ!?」
いきなり、かぐらとユージ正面に立っていた男の持っていた猟銃が壊された。
そして、二人の前には、普通の狐の倍の大きさの、純白の狐が立っていた。
「な―――、何だ、コイツは……」
正面の男はそういった後、その狐の爪で喉を裂かれて死んだ。
「くそったれぇ!!」
別の男が猟銃を撃ったが、当たるわけもなく、喉に噛みつかれて死んだ。
しかし、この白い狐は年寄りなのか、ここまで来て二人の狩猟者を殺したところで、
息が切れてきたらしい。
「―――無理をなさらずに! 後は私がやります!!」
「みゆきちゃん!」
「みゆき様っ!!」
白い狐の正体に気付いていたみゆきが、狐を庇うように前に出た。長の娘を守らんと、
二人の狐耳っ子姉弟も前に出る。
「どうやらあの白いのは疲れちまってるらしい! 全員仕留めるぞ!!」
男の一人が、隣の男に言う。返事は無い。
「おい! 聞いてんのか――――」
その男は後ろを見た時、驚愕した。
隣の男は、そのまま倒れてしまった。喉元から、鮮血を流して。
そして再び目の前の獲物達を見ると、もう一匹の白い狐が彼らの前に立っていた。
その紅い眼は、男達を睨みつけている。
「うっ、うわぁぁぁぁぁ!!!」
二人の男が猟銃を乱射した。だが、後から出てきた白い狐には一発も当たらなかった。
かぐら達に向かってきた流れ弾は、まだ力を残っていた最初の白い狐が前に立ち、
当たる前に全てその狐が張った結界に弾かれた。
そして、撃った二人の男は、やはり喉元を裂かれて果てた。
「ひっ、ひぃぃぃ!!!」
最後の一人が腰を抜かし、その場に座り込む。白い狐はゆっくりとその男に近づき、
男は後ずさりする。
「たっ、助けて――――」
最後に命乞いをしたが、結局、彼も他の狩猟者達と同じ末路になった。
「これは報いなのです。何の理由もなく、この地の獣達を殺したあなた方への………」

狐達が白い光に包まれる。
そして次に現われた時には、同じ白髪、白い耳、白いシッポの狐耳っ子がいた。
狐耳っ子一族の長と、その娘のゆきだった。
「大丈夫ですか? 長」
「ハァ、ハァ……流石にこの年になるとあの姿になるのも疲れるな………」
長が言う。
「ゆきお姉様……何故ここに?」
「アナタの帰りが遅いから、アナタから発する気を頼りに探していたのですよ
―――まさかあんなに大人しいみゆきが、こんな無茶をするなんて……」
「ごめんなさい、でも、私は―――」
みゆきがそこまで言った後、ゆきは優しく彼女を抱き寄せました。
「よく、頑張りましたね――――、アナタは、私の自慢の妹です」
「――――はい、ありがとうございます、お姉様………


「もうっ、二人とも心配したんだからね!」
恵が、何の連絡も無しに何処かへ行って、戻って来た二人に説教を始めました。
恭子と恵は、かぐらとユージを知らないかと美奈達に聞き、事情を知るなり
不安で不安でたまりませんでした。恵が怒るのも無理はありません。
「まっ、無事に帰ってきたから良しとしますか―――、さっ、部屋に戻ろ」
「はい」
「うん」

一方、こちらでは……
「兄貴ぃーー!!」
先程の狼耳っ子・妹が、泣きながら兄に抱きつきました。
「痛っ、いだだだだっ!! 馬鹿っ、あんまり強く抱きつくな!!」
「良かった、兄貴が生きてて、本当に………」
泣きながら喜ぶ妹の頭を、兄は優しく撫でます。
「良かったね、妹さん戻ってきて♪」
ひなたも嬉しそうです。
そして狼耳っ子・兄は、そのまま布団から出て起き上がりました。
美奈が、
「ちょっ、まだ安静にしてないと―――」
「大丈夫だ。野生の力を甘く見るなよ?」
「そうそう。アタイの兄貴は回復力抜群なんだから」
そう言って、彼らは部屋から出て行こうとします。
そして、その扉の前で、
「おい人間……じゃない、美奈、先生………」
「何?」
狼耳っ子は照れくさそうに、
「まだ、治療してもらった礼を言ってなかったな………ありがとう」
「――――どういたしまして。お礼なら、あの二人にも言っておいてあげてね。
それと、絶対に無茶はしないように」
「……心得た」
狼耳っ子の兄妹は、部屋を出て行きました。
「さてと………夕食前にさ、もう一回温泉入らない?」
「温泉!? 入る入る! また混浴やりたい!!」
「ボクも、ひなたん達と温泉入りた〜い♪」
「じゃあ決まりね。早速行こっか」
美奈と潤は顔を合わせて、「元気な子達だな」と言うような顔で、フッと笑った
後、言い出しっぺの有紀と同意したケンタ達の後を追うのでした。







狐耳っ子一族の長は、白孤と呼ばれていました。今もそう呼ばれる事が多いです。



白孤の狐耳っ子は、髪も、耳も、尾も真っ白で、とても強い妖力と霊力を持っていました。



そして白孤は白い大狐に変化して、森を荒らす者に死の制裁を加え、生きるために獣を
殺す者に慈愛の心を説き、森を愛す者に祝福を授けたと伝えられています。



白孤。それはこの地の守り神であり、気高き存在で有り続けます。



そして、昔も、今も、これからも、この地を守りつづけます――――――








後書き
…………書いた自分が言うのもなんですが、何かメチャクチャです。
『狐に化ける狐耳っ子』って………
またしても、ツッコミどころ満載の作品を作ってしまった紅陽華です。
だけど、狼耳っ子はいてもいいと自分は思います。
だってカッコいいじゃないですか、狼(知るか
にしても、相変わらず地の文より会話の文の方が多い……
物書きとしては相変わらず未熟ですが、これからも作品を作っていこうと
思います。頑張るぞ!!









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